このアルバムそのものが僕がずっと長年問いかけていたクエスチョンなんだ / ドレスコーズ・志磨遼平インタビュー


みんなとは違うという光を昔、ロックの中に見てやってきたはずなのに、気づいたら、みんなと同じロックの中道の中にいた


ドレスコーズの3枚目となるアルバム『平凡』は、志摩遼平のスーツ、眼鏡のイメージビジュアルも含め、これまでのロックの既成概念に対して一石を投じる衝撃的なコンセプト・アルバムだ。志磨はいったいこのアルバムで何を訴え、表現したかったのだろうか?


 —今回、こういったコンセプト・アルバムを作ろうと思ったきっかけは?


 志磨:根本的に(ロックって)自分の自己表現のツール、つまり歌っている人が自分の為に作った音楽を、聴衆がありがたく拝聴させていただくというようなイメージがあって。でもいい意味でロックって何かしらの答えを示してくれることがあるじゃないですか? 若い頃に聴いたものは特にそうだったし、悩んでいたこと、学校の先生が教えてくれないことを(音楽が)教えてくれたんです。僕もそういうものにたくさん感化されて、大きくなったんですけけど… .


作品を自分のエゴや自分語りの道具にはしたくなかった  


志磨:僕は作品を自分のエゴ、自分語りの道具にしたくないという思いが5年くらい前からあったんです。とはいえ、曲も絶えず作っていたし、その時々の自分の感情や、出せる限りの自分なりの答えを歌詞にして音楽に乗せて世の中に出していたんです。演奏の機微は音楽マニアなら楽しめると思うけど、それってある程度トレーニングが必要ですよね。世間に訴えかけるには歌詞や歌で伝えなければならないのが難しい。作曲やアレンジ、演奏はストイックに突き詰めることができても、歌詞というもの、自分の言葉が曲に対してずっと煮え切らないものがあったんです。 


やっと自分を語らないでアルバムをひとつ作ることに成功した 


志磨:でも『平凡』は僕の中で「個性をなくす」ということをコンセプトにすることで、やっと自分を語らないでひとつのアルバムを作ることに成功したんです。きっかけはデヴィットボウイやプリンスが昨年亡くなったことだったかも知れません。「個性をなくす」というテーマも、僕がうっすら考えていた、「ファンクのような音楽スタイル」や「コンセプチュアルな手法」、「自分をキャラクターに変化させて、志磨遼平のエゴみたいなもの消す」といったアイデアが急き立てるように来まして、訃報を後押しと取っていいか、あれですけど、ハッパをかけられているような気がしました。ボウイの最後のアルバムも素晴らしかったし、僕がこの次を作らないといけない!みたいな妄想にだんだん駆られて…、そこから一年間、このアルバムのことばかりを考えて、いろいろなことを調べたり、曲を作ったり…。実際には、ほとんど調べることに時間を費やしましたけど。


 —どんなことを調べられたのですか?


 志磨:本ばかり読んでいましたね。マルクスなんかの資本主義や思想家のロランバルトについて書かれた本、今までまったく興味のなかったようなことも気になり始めて。調べていくうちに(自分の中で)バラバラだったものが、シンクロニシティーというか、全部繋がってきました。「あ、これもまた同じことについて書かれているな」とか、なんだか僕がやろうとしていることを指し示しているようで気味悪くなりました。


 —実際にアルバム制作に入ったのはいつくらい?  


志磨:やらねばならない妄想というか、やっとそれが固まってきたのが、去年の末の11月、レコーディングが12月からですから(このインタビューは2月初旬に行われた)。僕も作る作るって一年ずっと言っていたので、スタジオも押さえていて、曲はあったんですけど、作品に落とし込めていなくて。必死に考えて、やっとギリギリに答えというかすべてがカチっとハマって、そこからが怒涛でした。1週間くらいで歌詞を全部書いて、1、2週間で録音も全部済ませて。さすがにミックスはじっくり1ヶ月くらい時間をかけられました。 


—アルバムの重要なキーワードである「自分を消す」と「ファンクなサウンド」を繋げるアイデアは最初からあった?


 志磨:あったにはあったんですけど、去年の春くらいには繋がらなかったんです。  


僕にとって個性というものが面白くないものに映り始めてきた


志磨:昔から本を読んだり、喋ったり、書いたりするのが好きで、その答えを音楽作品として吐き出しているんです。バンドをやり始めた頃から、ひょっとして僕はミュージシャンじゃなくて評論をしているのじゃないかって思うときもあって。今回なら「ファンクというものは、実際のところ、こういうものである…」みたいな研究の成果としてアルバムを発表するような…。

  もちろん純粋に感覚として、ファンクを一度ちゃんと演りたかったし、コンセプトの「個性を消す」とは繋がっているはずだけど、どういうロジックでそこに辿り着けばいいのか、ちゃんと理由を見つけないと気が済まないタチでね。


 ロックンロールの使命みたいなものからは脱却したかった 


志磨:何かに答えを出すことや、現状を打破すること、そこはロックンロールの使命みたいなものがあって、「うるせえ」であったり、「そんなものは必要ないんだ!」「大事なのはこれなんだ」、「そんなものはぶっ潰してしまえ」といった何かしら現状を解決してくれるようなものがロックにあったり、それは自分の中の創造主、カリスマ的なスター、ボウイだったり、ジョン・レノンだったりジム・モリスンだったり、彼らに何かを導いてもらったりしていた…。でも、そういうものから僕は脱却したいんだなって。


 ファンクは自分のやろうとしていることにピッタリとハマるものだった


 志磨:ロックがスタート地点からゴールに向かって進んでいく物語だとしたら、ファンクは問いも解もなく螺旋のように上昇していく、全体でひとつのビートを延々と繰り返すもの。個人の何かを歌うというよりは、何か大きな問題をテーマにしている気がします。ファンクは、その場で起こるケミストリーも含め、自分のやろうとしていることにピッタリとハマるものだったんです。ロック的なものから脱却して、延いては、そこから近代思想というか、哲学や、その頃の歴史背景にまで辿り着いてしまった結果、「自分とは一体何だろうかという答えを、自分たちで見つけて、自由に快楽的に生きようやないか」というのは、ここ100年くらいの話だとわかったんです。これから先、僕らは新しい快楽や自由を100年かけて探していくだろうし、自我とか、そういうものの先に何かテーマあるんじゃないかって。ものすごく壮大な話になってきて…、それをうまく一つの作品に落とし込めるテーマ、コンセプトをモヤモヤしながら1年考えていました。


 —『平凡』はどこか生き急いでいるような印象を音からも感じました。


 志磨:本当にそう思っていました。今は周りの時代のスピードに同調しないといけないと思っていたんですけど、実はそのスピードがめちゃめちゃ早くて、トップランナーに遅れをとらないように一緒に走るみたいな感覚でした。自分が生き急いでいるというよりは、絶対に「今これをテーマにした作品を今のうちに発表しないといけない」というものすごい焦りがありました。ほっておいたら、そのうち誰かがやってしまうんじゃないかって…。


 みんなの集中力と熱量がものすごかった  


『平凡』のレコーディングにおいて、志磨がファンクという未知の領域へ踏み入れるのに集められたメンバーはハヤシ(POLUSICS)、吉田一郎(ZAZENBOYS)、ビートさとし(skillkills)の3名。果たして、このメンバーが集められた理由とは?


 —実際のレコーディングでは、アレンジも3テイクくらいで決めてしまわれたそうですね? 


志磨:このアルバムの音楽的なものの半分は彼ら(レコーディング・メンバー)のインプロビゼーション(即興演奏)に頼っていますね。僕が作ったのはメロディとコードくらいで。僕のデモをレコーディング・メンバーに事前に送ってはいたんです。(メンバーは)みんな顔見知りではあったとしても、現場で一緒に演奏するのは今回が初めてだったので、スタジオでは「まずはちょっと一回聞いてやって見ましょう」という、まぁいい感じでうる覚えな感じがあって、コードを追いながら演って。みなさん、ある程度のキャリアがあるので、勘がいいというか、自分たちの中で何かが生まれかかっているという匂いを敏感に察知できる。いい感じに僕のデモを崩していく中で、最終的にこんな演奏をするだろうというのが3テイク以内でわかるんです。自分たちの限界みたいなものをすぐに形にできる。それは決してネガティブなことじゃなくて、今、自分たちができること、やることを全員が一瞬で掴んで、曲のグルーヴが生まれてくる。その時点でデモとは全く違うものになっているんです。とにかく、みんなの集中力と熱量がものすごかった。


 —メンバーの人選はどういった感じで?


 志磨:ファンキーなものをやろうということだったので、ベーシストはZAZENBOYSの吉田一郎という男、彼のベースは素晴らしいものがあります。僕がやりたかったのはブラックミュージック的なものではあるんですが、ニューウェーブ的な匂いが欲しかったんです。ロックを通過して、そこにたどり着いた感じが欲しくて。それの一番最たるものがハヤシさんのギターです。ブラックミュージック的な演奏が得意な人だと、たぶん僕がやりたいことができない気がして。いわゆるファンクやR&Bが得意なギタリストは他にもいたけど、ニューウェーブ・ファンクな感覚で演奏ができる人がいいなってことで、この3人が浮かびました。スケジュールも軌跡的にOKをもらえて、そのときやった!と。このメンバーが揃うならアルバムの半分はもうできあがったと! 


 --アルバムの中でキーとなる楽曲はありますか? 


志磨:ストーリーっぽい曲順にはなっているけど、特にそこまでこだわってはいなかったです。曲順は演奏する段階で変わっていくと思うから。しいて言うなら1曲目の「common式」がキーにあたりますね。この曲は建物でいう定礎にあたるもので、ずっとデモNO1というタイトルがついていました。去年の割と早い段階、確か3月、4月くらいにレコード会社に「こういうアルバムを作りたいので」と聴かせた曲です。ほぼワンコードのループだったので、レコード会社の方は「大丈夫?」という感じだったのですが、とにかく僕は「こういう感じで一枚作りたいんだ!」とアピールして。


 —「common式」はデモの段階からホーンは入ってくるイメージで? 


志磨:ありましたけど、ホーンに頼り過ぎないように、基本は3ピースでできるもの、なるべくオーバーダビングもしないでおこうと決めていました。


 —先ほど、ワンコードでみたいな話がありましたが、今回のアルバムはループ+サビといった作りのシンプルな曲構成が多いですよね、そこは意識的に? 


志磨:僕の思想だけを極端にラジカルにやろうと思えば、延々ループでやっていけると思うんですけど、さすがにそこは商品というか、必要なサービスなので、ちゃんと展開も用意しました。僕はそういうのも大好きなので。


 —一年という歳月をかけて作られた『平凡』ですが、このコンセプト・アルバムは、どういう位置づけになるでしょう? 


 志磨:自分の音楽が誰かにとっての答えなのではなく、このアルバムそのものが僕がずっと長年問いかけていたクエスチョンなんです。このアルバムを聴いて、それぞれが考える答えとか、思想ってきっとあると思うので、それを僕が知りたい、という不思議な関係性になるアルバムです。リスナーとこれまでの音楽とは違う関係性も築いてもらえる作品になったんじゃないかな。そういうのが今っぽいなって。  


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ドレスコーズ・オフィシャルサイトhttp://dresscodes.jp/

『平凡』アルバム特設サイトhttp://dresscodes-heibon.jp/

『平凡』/ ドレスコーズ

1. common式 :2. 平凡アンチ : 3. マイノリティーの神様 : 4. 人民ダンス : 5. towaie : 6. ストレンジャー :7. エゴサーチ・アンド・デストロイ : 8. 規律/訓練 :9. 静物 : 10. 20世紀(さよならフリーダム) : 11. アートvsデザイン : 12. 人間ビデオ

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